急がば回れ vs ウサギとカメ

朝も早くから窓にバラバラと激しく雨の叩きつける音が聞こえてくる。この雨の中をバス停まで歩いていくのはちょっと大変だなぁと思っていたらありがたいことに家を出る頃には雨がやんだ。おぉ、これこそまさに天の采配!


「・・・いや、わしなーんもしてへんで?」
「そーいう意味とちゃいまんねん」

何はともあれ職場に着くまで雨に降られることもなくて大いに助かる。間もなく雨風が本格的なものとなってみんなビショ濡れになりながら部屋に入ってくる。こりゃあ大変な1日になりそうだ。着々と愛知県に台風が近付いてくるとともに電車の運転見合わせが出始める。こりゃ今日は間違いなく帰られないぞ、と思っていたらギリギリなんとか運転見合わせにはなっていないようだ。仕事が終わる時間となり「電車が動いていて帰宅できるものはなるべく帰宅せよ」との指示、残る者帰る者とを分けていざという時に共倒れにならないようにするためなのであろう。
しかし外は暴風雨、傘を差してもなんの役にも立たない。ほとんど唐傘オバケのようになりながら早足で地下鉄の駅まで走りこむ。乗り換えの名鉄電車の駅に向かうとなにやらザワザワと雰囲気がおかしい。イヤーな予感がして電光掲示板を見ると真っ暗。非情にもアナウンスの「台風23号の接近のため運転を見合わせている」との声が・・・。これから最接近してくるというのに今から見合わせていたらまず終電まで動く可能性がまずゼロではないか!仕方がないのでコーヒーでも飲みながら様子を見ようとお店に入るとこれまた「台風の接近で午後6時には閉店します」とのつれない返事。職場に戻って泊まっていくというのも選択肢の1つではあったけどいかんせん着替えも何もなく、既に結構濡れた状態でもあり、泊まっても明日この格好のまま仕事をするのはさすがにたまらない。最寄のサウナに泊まるにしても同じ。となるとなんとかして家に辿りつかなくてはならない。答えは1つ・・・歩く!

職場から念の為に持ってきておいた雨合羽をしっかりと着込んで駅のコンコースから外に出ると、うはは、この風と雨は尋常じゃないぞー。この中を家まで歩いたら・・・5時間はかかるだろう。しかし千里の道も一歩から、日頃の運動の成果を見せてやろう。
雨風にもまれながらも向かい風になることはなく道のりは順調に進む。途中雨が収まり、次に風も収まり、月や星まで顔を出す始末。これなら電車の復旧も間もなくだろうと確認してみたらまだまだそんな状態ではないらしい。仕方がないのでただひたすらにテクテクテクテク黙々と足を進める。2時間ほど歩いたところでさすがに疲れが現れ、冷たい物でも飲んで一息入れようと自動販売機でボタンをポチッとな。熱っつー!・・・げ、温かい方の飲み物だ。しかしもったいないので飲み干すと合羽を着こんで動き回って熱を帯びている体が余計に熱くなってしまった。はふぅ。

そのうちに本当に台風が近付いているのかと疑ってしまうほど天候が回復して地面も乾燥し始める。雨合羽装備も解除して心地よい風を感じる一方で次第次第に蓄積してきた疲れが足にのしかかる。しかし!男が一度決めたこと、いくら前から後ろからタクシーがやってこようが地元の駅に辿り着くまでは絶対に乗らーん!
道中停電で信号までもが消えて真っ暗となっている道を通りつつ水溜りに思いっきり足を突っ込みつつ、あと少し、あと少しと念仏を唱えるように歩いているとようやくゴールが見えてきた。と同時にポタポタと雨が降り始める。猛ダッシュでタクシー乗り場まで走り間一髪。運転手さんと話をしながらほっと一息、自宅に向かってもらう。「それにしてもなんでここまで歩いてきたのにここからはタクシーなんですか?」、その疑問はごもっとも。ゴールを駅に設定していたから気力がそこまでしかもたなかっただけのこと。さすがにアメとムチがないと気力が奮いたたんのよ。

4時間かけて辿り着き、晩ご飯を堪能してシャワーで疲れた体を癒し、寝っ転がってようやく落ち着くことができた。まぁ明日の朝多少の筋肉痛は覚悟しておこう。それにしても駅に着くと同時に再び激しく雨が降り出したのは、まさに天が味方してくれたに違いない。


「今さらそんなん言わんでも、いつでもアンタの味方ですがな」
「アンタのことやなーい!」

今日はグッスリと寝られる・・・のはいいけれど、台風23号の今後の進路が心配でもある。