「恐怖」+「食べ物」でまっ先に連想するのは「恐怖の味噌汁」。もっともこれは「今日、麩(ふ)の味噌汁」というただそれだけのものだけど、今回遭遇したのは文字通り「恐怖のタンタン麺」。
日曜日に激辛タンタン麺を食べ、火曜日に別の店で激辛タンタン麺を食べ、職場の同じ係の人と「激辛っていうほど大袈裟なものじゃないよね」と話していた。そう、もっと腹の中から燃え上がるような刺激のあるタンタン麺、それを求めてあちこちのお店を折に触れて探していたけど「四川」の辛さを超える店は全然見つからない。ココイチの10辛カレーだって足元に及びすらもしない。もっと刺激を!そんなバカなことを考えていると昨日水曜日に「四川」に行くこととなった。うーん、実に久しぶりのこのお店、普段だったら「普通」のタンタン麺を頼むところだけど今日は違う。なんでもただでさえ常識外れに辛いタンタン麺を上回る辛さの「ターラー」タンタン麺なるものがあるらしい。「ターラー」とは中国語で「無茶苦茶辛い」の意味、英語で言うなら「ベリーホット」、果たしてどれほどの辛さのものなのか味わってみたくなった。ついでに自分の体がその辛さに順応できるかを試してみたくなった。
「ターラータンタン麺、1つ」、この一声が後に始まる悲劇の始まりを告げることになろうとはこの時には露にも思わず。運ばれてきたどんぶりを見ると赤色を通り越して赤黒い。いや、黒赤いと言った方が正しいのかもしれない。匂いと色が本能にささやきかける、「これは本当にやばい」と。しかし人間何事にもチャレンジャー、さっと一口口に含んでみると・・・あかん!これは本当に辛いを通り越して痺れる!唇が、口の中が、食道が、気道が、その麺と汁とが通過する全ての場所において強烈な刺激を及ぼす。これだ、これこそが求めていた辛さと刺激だ、と半分ヤケになりながら挑戦を込めて食べ続ける。途中妙に動悸が速くなる、そして貧血とまではいかないまでも少し頭がぼーっとする瞬間が訪れる。なんかやばいなぁとは思いながらもおそらく今回っきりしかこのメニューは頼まないのだからと記念の意を込めて汁も全部飲み干す。底の方には唐辛子だが山椒の粉がとぼっていてザラザラとした舌触りがするほどだった。見事完食!自己満足にひたりながら店を出ると胃が重い。そりゃ普通のタンタン麺ですら胃がシクシクなる時があるのだから多少は仕方がない。しかし歩いているうちに胸にこみ上げてきそうな感触を覚えて立ち止まる。うーん、明らかに体に異変が起きている。それでもなんとかそんな気分の波もおさまり、気を逸らしながらだましだまし職場へと戻る。
「さっきこんなもの食べて来ましてね、あっはっはー」「あんたアホちゃうか」などなどその凄まじさを語っている最中にも時々胃や胸に不快感が襲い掛かる。それ以上の症状が出ることはなく、夕方を迎えて当直体制に突入。しかしとうとうここで本格的な異変がやってきた。胃がまるで締め上げられるように痛く、苦しい。その激しさは脂汗が浮かんできてしまうほど。まるで胃が限界を超えて悲鳴を上げて抗議しているかのようだ。これは本当にマズイッ!これ以上悪化したらどうしようと心配になっていると、徐々に痛みも収まったので一安心する。それからおおむね1時間後に仮眠の時間となったので布団にもぐって横になると・・・またも先ほどの痛みがやってきた。右に寝転がっても左に寝転がっても上見ても下見てもダメ、立ち上がってウロウロ歩き回っているうちになんとか痛みの波は去った。しかし寝る時にこんな痛みが襲ってきたら眠れなくなってしまう。痛みが去った今のうちに、さっさと寝付いてしまおうと横になると数分後にまたも激痛!うぉーっとひたすらじっと「痛くない痛くない」と言い聞かせながらガマンして脂汗をかいていると波が引いて痛みがなくなった。今日はもう眠られないことを覚悟しないといけないかぁと思ってちょっと無謀なことをしたなぁと反省しているうちに、幸いその痛みに襲われることはなく、なんとか仮眠を取ることができた。しかし朝2時に起きてきても胃が重いことに変わりはない。とにかく水分を多めに取ろうとお茶やら水をたくさん飲む。どうやら眠っているうちに異変の峠は越してくれたらしい。それでも凄まじい痛みこそなくなったものの胃の不調はひどいものである。時々トイレに入ってはヒリヒリ感を味わうこととなる。徐々に体内に蓄積された辛味成分が体外へと放出されてゆく。お昼を迎える頃にはどうにかいつもの調子を取り戻しつつあるようになり、しっかりと昼ごはんを食べる・・・さすがに辛いものは当分見たくないのでいわゆる高山ラーメンのようなあっさりした優しいお味。食欲は回復したものの胃や腸の調子は完全には回復していないから、今しばらくは刺激の強いものは避けなくちゃいけない。身体の処理能力の限界を超えた刺激物を摂取するとどのような結果をもたらすのかをイヤというほどに思い知らされたから、これからの人生の教訓に・・・。あー、もう本当に当分辛いものは禁止!ごめんよ、マイボディ!(ちなみにココイチのカレーを40辛にしたところであのような凄まじい辛さにはなりますまい、うん)。